『トヨタで1,000円』

今回は、社会保険労務士の荒木さん記載のブログを掲載します。

例年この時期は給与改定のシーズンになります。
新聞紙上などでも今年の賃上げ交渉の結果が公表されています。
報道ではトヨタが1,000円と報じられています。

これを受けて私どもに、
「トヨタでも、たった1,000円の賃上げなんだね?
ウチあたりだったら賃上げそれほど気にしなくても平気だね。」

との話をいただくことが多くありますが、これは正しくありません。
1,000円というのは「賃金改善」の数字であって賃上げ全体の金額ではないのです。

先日の日本経済新聞記事によると、主要企業の賃上げは平均で1.91%、金額にして5,503円と小幅な伸びにとどまっているとされています。

そこで今回は【2008年の賃上げ事情】を考えてみたいと思います。


定期昇給とベースアップ

かつては賃上げ交渉というと「定期昇給」と「ベースアップ」という言葉で表現されました。

「定期昇給」というのは、毎年一定の時期に行なわれるそれぞれの企業の賃金制度や昇給制度にしたがって行なわれる昇給のことです。

一般的に賃金制度では、年功序列制度や勤続年数を重ねるごとに賃金が上がる仕組みを基本とする制度を作っていることが多くあります。特に社歴の古い企業に多く見受けられます。しかし、最近では賃金制度として定期昇給の仕組みを持っていないところもあります。

「ベースアップ」とは、定期昇給を上回る加算がされた場合を言います。
ベースアップは全ての正規従業員の賃金を一律的に引上げるもので、一定額であったり一定の率を掛けたりして賃金を加算するものです。

様変わりしている賃金改定

定昇とベアについて説明して来ましたが、実はここ数年わたってベアという言葉は『死語』になってきています。また賃金制度がここ数年大きく変更された影響で、定期昇給の仕組みすらない会社も多く出てきています。

いずれも、長い間の不況とデフレで、賃金は必ず上がるもの、といった考え方が時節に合わなくなっていることが原因しています。
むしろ最近では企業は人件費の負担を下げるために、正規従業員を減らしパートや派遣などの非正規従業員を増やしてきました。
また定期昇給も含めて賃金制度を改定し、賃金の伸びが低く抑えられてきています。

従って、特に一律的に賃金を引上げるベアという言葉は賃金改定の際に使われなくなってきていますね。連合でも最近の春闘での賃金交渉ではベアで交渉するのではなく、『賃金改善』という言葉を使うようになっています。


賃金改善とは

賃金改善の目指すところは、多様化する賃金制度や雇用形態のなかで、定昇+ベアといった一律的な賃金の改定では時代が合わなくなってきたので、賃金を上げる原資の確保・拡大を求め、具体的な昇給原資の配分については経営側の戦略に任せるというものです。

経営者としては今の時代ほど、先の読めない時代は無いと思います。
今年は景気が良くなるのかなと思っていても、サブプライムの問題が食料品の値上げといった思わぬ影響をもたらすし、政治の無責任が経済に悪影響を相当に及ぼしています。

そんな時代に、横並び的な賃上げを実施すれば、それは即硬直的なコスト増になり、企業の体力を蝕むものになっていまいます。

ただし、企業としても賃金や人員バランスを整えて、将来の人材育成に備えたり、現状で特に負担のかかっている部署に配慮する必要があります。
そこで賃金を改定する際に、一律的な配分よりも、経営課題に即した重点的な配分を行なうようになってきたのが最近の傾向です。

実際伊藤ハムでは生産ラインの品質や衛生管理を強化するために班長さんへの手当を新設したり、富士フィルムでは出産祝い金制度を設けて子育て支援を行なうなど、各社とも実情に合わせて工夫を凝らした内容になってきています。


これからどうする?

いままで大手企業では固定的な賃金制度に合わせて定昇・ベアという賃上げから、賃金改善という流れになっていることを述べてきました。
中小企業においては現実問題として、賃金制度をしっかり整備している企業は少なく、その時の経営の状態で気分的に賃金改定が実施されているものと思います。

賃上げの原資として月間これくらいとか、年間でいくらと決めて、月給と賞与でのバランスをとって改定している企業はまだ良いほう。

従業員の顔を思い浮かべながら、鉛筆なめなめして、支給する金額を決定しているのが多いではないでしょうか。賃金改善の考え方は私はむしろ中小企業にとってはやりやすい方法かなと思います。

ただしきちんとした戦略がないと折角の賃上げも意味を持たずに、無駄な資金流出になりかねません。

中長期的な面、短期的な面での人事政策や経営課題をしっかりと捉えて、今年の賃金を改定されることを望みます。


(社会保険労務士 荒木秀)





(2008年04月15日公開)

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